阪急十三西口にて。

愛したのはきっと。

色気より食い気

 

出張が終わり午後2時

腹ペコのお腹がグーグーなる。

 

(どこで食べよ。)

 

某ショッピングモールで買い物を済ませ、三階のエスカレーターで登った先にビュッフェスタイルの飲食店が並んでいた。

 

(空いてるし、ドリンク付きだし、ここでもいいかも。)

 

ランチ1299円、看板の前で少し悩む。

少し後ろに誰かが同じように立った気配がして振り向いた。

そこには20代後半の男性が立っていて、ふと目があったが、私はそのまま看板に目を戻し、やっぱり他のお店にしようと踵を返した。

 

エスカレーターまで戻ろうと少し歩いたところで、後ろから呼び止められた。

さっきの男性が追いかけてきて、いわゆるナンパだった。

 

「お昼まだなんですか」

「あーそうですねぇ」

「よかったら一緒にどうですか」

「いやぁ」

「ほんとに、すごいキレイだなと思って」

 

褒められることがなくなってきた32歳、揺らぐ。

 

「ごちそうしますよ!」

 

そう言われて、2つの感情が葛藤する。

①ビュッフェバイキングでホイホイついてきそうな安上がりな女に見られてるのか

②いいじゃん!昼飯代浮くじゃん!おごってもらえよ!

 

かつて、ゴルフ関係の仕事で裕福な時代を過ごし、正月は湯村の高級旅館いづつや、お盆は牛一頭買いの贅沢三昧で舌を肥やした幼少期のプライド。

家が競売にかかって、もやしスープと腐りかけの餅で過ごした思春期時代の貧乏人根性。

 

かつての私なら、ここは奢ってもらって、ついでに話のネタにでもなればいいやと思った。 でも、今の私は違った。

 

「ごめんなさい。」

 

断ったら断ったで、私ごときがって自分で自分を責めてしまう。

たまに自分がめっちゃ美人で、たまに超ブサイク。

どちらにしよ自信はない。

 

「餃子2人前あとビール、ビールは餃子と一緒でいいです」

結局カウンターだけの大好きな餃子屋へ。

餃子は2人前から、ビールは瓶だけ。

焼けるのを待つ間、パリっと決めた男性が入ってきた。

 

「餃子2人前と、生中」

「すみません、うち大瓶しかなくて」

「あー、餃子は減らせないですよね」

「すみません」

 

黙る男性に話しかけた。

 

「私のビール半分どうぞ。私もお腹いっぱいなっちゃうから、代わりに、私の餃子1人前ごちそうしてくれたら、それでウィンウィンでいいですよ」

 

結局、餃子3人前とビールを二人で分けることになった。

32歳、営業、大きい口でよく食べるが、キレイな食べ方、合格。

 

「5時から梅田で焼き肉なんで、助かりました。」

そう言って、彼は1400円ほどの会計を払って、私も甘えることにした。

 

渡された名刺をポケットにしまう。

 

ポケットの中で何枚も名刺が重なって折り曲がる。

それは私がモテるとかではなく、なんかちょろそう、なんか安く済みそう、そう見えるから。

なんとなく気づいてる。