この命啄まれる日まで
「月曜日、倦怠感、はい、、、火曜水曜休んで、今日39度、はい。」
緊張走る事務所内。
射程距離に入ったか。
「胸の痛み、はい。とりあえず保健所に電話して、逐一連絡くれる?」
次に撃たれるのは誰か。
11時本部から司令が入る。
「敵の本拠地を徹底除菌せよ」
保健所からは連絡は来ない。
12時、ホームセンターで農作用の液体噴射機を購入。
「パチンコで言うたら、赤玉保留に群が走って。」
「かなり濃厚で激アツ」
外れる気がしないってやつ。
70%欠席を目標にする事務所内はただですら静かなのに、乾いた笑いが換気で開きっぱなしの窓に逃げていく。
お昼2時。
「私が行きます」
うちの事務所はシルバーが多い。
それに高血圧、結核経験者、糖尿病。
高リスクのオンパレードの中、超健康優良児の私(32歳、子無し)。
使ったこともないポンプ式の農薬噴射機を背負い、百姓のジジィ達に使い方を習う。
サンバイザーと3Lサイズの雨具、守られてる気もしないが、ないよりは心がマシ。
「汚物は消毒だー!」
敵陣の本拠地へ踏み込む直前、無線が飛ぶ。
「小日向さん!陰性!陰性やって!撤去!!」
事務所へ帰って、脱いだ雨具は汗でべっしょりだった。
3時半、疲労から1時間職場了承で早退。
帰りにいつもより少し高いワインを買った。
4時、洗濯物を畳み、昨日1日かけて模様替えした部屋へ。
ワインをあけ、私には、ここ最近美しく見える空を見上げる。
空気もきれいに思える。
人が少ない街も、事務所も好き。
そんな世界で、いつまで生かされるだろう。